心理的瑕疵のある不動産(事故物件)を売却する際の告知義務とは|不動産売却豆知識(第19回)
2024/01/202024/02/19
不動産には専門的な知識や用語が多く、一般のお客様には特にわかりにくいと思います。
本ブログ内では、「不動産売却豆知識」シリーズとして、不動産取引に役立つ豆知識を解説します。
不動産取引に役立つ豆知識を解説していく不定期更新シリーズの第19回!
「心理的瑕疵」をテーマに、事故物件を売却する際の告知義務について解説します。
<事故物件とは>
事故物件とは、法律上の定義はなく、一般的には、過去に殺人事件や死亡事故、自殺などの事実(心理的瑕疵)がある物件のことを指します。
<心理的瑕疵の告知義務とは>
心理的瑕疵に該当する判断基準として、判例では「単に買主において、不動産内で事件、事故、自殺などで死亡した事由の存する家屋の居住を好まないというだけでは足らず、さらに進んで、それが通常、一般人において不動産内で事件、事故、自殺などで死亡した事由があれば『住み心地のよさ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものであることを必要とする」とされています。
また、心理的瑕疵が存在する不動産を対象とする売買、賃貸借等を行う場合、売主・買主・媒介業者(不動産会社)が買主・貸主に対して心理的瑕疵に該当する事実を告げなかった場合、告知義務や説明義務に違反するとして、債務不履行責任や不法行為責任が認められる可能性があります。
ただし、判例でも具体的な事例を提示しておらず、どのような事由が心理的瑕疵に該当するかについては、事件・事故の重大性、話題性、経過年数、買主等の使用目的、近隣住人に事件等の記憶が残っているかなど、個別に総合的に考慮されると考えられています。
<心理的瑕疵についての具体的裁判例>
心理的瑕疵について争われた実際の裁判例を紹介します。
参照:国土交通省「心理的瑕疵の有無・告知義務に関する裁判例について」
◎心理的瑕疵を認めた事例
事例1.大阪地裁判決(平成21年11月26日)
事案:本件売買の8年9か月前、本件マンションの所有者家族の2名が室内で他殺が疑われる状況で死亡し、2名が近隣マンションで飛び降り自殺をした事件があった。本件事件の5年6か月後に、本事件の告知を受けた上で本物件を購入した売主が、その3年3か月後に、本事件を告知せずに買主に売渡した。
購入後に、本事件を知った買主は、売主に対して告知義務違反を理由とする売買契約の違約解除の意思表示をした。
判決:本事件の存在が、本件売買の価格形成において重要な事実であることを認識していた売主には、信義則上本件事件を告知する義務違反があるとして、買主の売買代金返還並びに約定違約金の支払い請求を認めた。
事例2.東京地裁判決(平成22年3月8日)
事案:本件土地で3年7か月前失火による死亡事故があったが、売買時において、売主はこの事実を買主、仲介業者に告げていなかった。買主は、売主に説明義務違反、仲介業者に調査義務があったとして、損害賠償請求と仲介手数料の返還を求めた。
判決:焼死などの不慮の死亡事故は、自然死とは異なって理解され、本件事故は4年近く経過しても近隣住民の記憶にとどまっていることから、本件土地には瑕疵があり、売主は信義則上これを告知する義務があったとし、損害賠償を認めた。
仲介業者への仲介手数料の返還請求に対しては、本件事故の存在を疑い調査すべき事情は認められないとして請求は棄却された。
事例3.高松高裁判決(平成26年6月19日)
事案:売買土地に関して23年前、当時の住宅の居住者が、本件土地とは関係ない場所で殺害されてその遺体がバラバラにされて山中に埋められるという事件があり、またその2年後に同住宅において自殺事件があった。売主・仲介業者はそのことを知らずに売買契約を行った。決済の数日前、仲介業者はそのことを知ったが、買主に説明をしなかった。
決済後、近隣の不動産業者より本事件を知った買主は、契約解除を売主に申し入れたが応じてもらえなかったため、仲介業者に対して説明義務違反を理由に損害賠償を請求した。
判決:本自殺事故は、20年以上前の出来事であるが、近隣住民において殺人事件と関連付けて記憶に残っている状況下においては、仲介業者は居住を目的としる買主に本件自殺事故の説明義務があるとし、損害賠償を認めた。
◎心理的瑕疵を否定した事例
事例1.東京地裁判決(平成19年7月5日)
事案:本件土地は、売買より8年7か月前、本物件上の共同住宅の一室で焼身自殺事故があり、以後建物は取り壊されて駐車場として使用されていた。本売買後、買主は本件自殺事故により損害を負ったとして損害賠償を請求した。
判決:買主の分譲価格は本件自殺を考慮されたものではなく、完売されていること。本件自殺より8年以上が経過し、事故があった共同住宅は解体されその痕跡が一切残っていないことから心理的瑕疵は認められず、損害賠償請求は棄却された。
事例2.大阪地裁判決(平成11年2月18日)
事案:買主は、建売住宅の販売を目的として、本件不動産の売買契約を締結し本件建物の解体を行ったところ、決済前において本件売買の2年前に本件建物内にて売主家族の自殺事故があったことを知った。買主は、本件土地に建物を建て販売することは不可能になったとして、契約解除の意思表示を行うとともに、損害賠償請求をした。
判決:建物内で自殺があった事実は瑕疵に該当する余地があると考えられるが、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は建物の解体によりもはや特定できないものに変容していること、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的と判断される程度には至っていないとし、本件事件は心理的瑕疵には該当しないとし、買主の請求を棄却した。
<国交省のガイドラインについて>
上の例でもわかる通り、実際裁判になると心理的瑕疵については、判決によって判断は異なるため、不動産業界では、不動産会社によって心理的瑕疵の取り扱いが違い、取引現場で難しい判断を下してきました。
そこで、国土交通省は、令和3年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関する ガイドライン」を作成しました。
本ガイドラインによると、以下の場合は告知義務がないとされました。
1.自然死、または不慮の死
2.対象不動産の隣接住戸または買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において1.以外の死が発生または1.の死が発生して特殊清掃が行われた場合
上記以外の場合、宅地建物取引業者は、取引の相手方当の判断に重要な影響を及ぼすと考える場合は、買主に対してこれを告げないといけないとされました。
宅地建物取引業者は、心理的瑕疵について売主に紹介した内容をそのまま告げれば良いとされ、売主から不明であると回答された場合、あるいは無回答の場合はその旨を告げれば足りるとされました。
<まとめ>
不動産売却の上で、機微な情報である心理的瑕疵についての取り扱いは、不動産会社は慎重に行わなれけばなりません。
しかし、売主様にはきちんとヒアリングをし、その内容を物件状況報告書に記載し買主様へお伝えする義務があります。
単身の高齢者が増加傾向にあり、今後、不動産内での自然死や不慮の死は増加するでしょう。
国交省のガイドラインでは、特殊清掃がなければ自然死や不慮の死は告知する必要がないとされていますが、近隣住民が不動産内で孤独死があったことを認識している場合、購入後、噂話などで買主の耳に入ることも想定されます。
近隣住民との関係性などを考慮し、孤独死などの事故物件(心理的瑕疵物件)ではない場合であっても、買主に告知をしておいた方がいい場合もあるかもしれません。
ご所有の不動産が、心理的瑕疵の告知が必要かご心配の方はお気軽にお問合せください。
過去の判例等、参照しアドバイスいたします。
お問い合わせは、「お問い合わせフォーム」まで。
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<この記事の執筆者>
株式会社ながろ不動産
愛媛県松山市本町6-6-7 ロータリー本町306号
代表取締役 長櫓 陽光(ながろ ようこう)
宅地建物取引士
行政書士(愛媛県行政書士会所属)
2級ファイナンシャルプランニング技能士
不動産業界歴10年以上
電話番号 : 089-994-6393
FAX番号 : 089-994-6394
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